第二章 刎頚(ふんけい)の友
1 親友の再会
テーバイは、スパルタ軍を追い払い、三年ぶりに自由を取り戻した。
故国解放の立役者のひとりペロピダスは、親友エパミノンダスの館に向かっていた。目ざす屋敷は町はずれにあるため、市内を横断してゆく。
その道すがら、テーバイの人々の暮らしぶりを観察する。スパルタ軍の占領統治のもとでは見られなかった活気が市場に満ち溢れ、カドメイアの麓(ふもと)にある劇場ではソフォクレスの有名な悲劇『オイディプス王』が上演され、大勢のテーバイ市民が舞台に釘付けになっている。
ペロピダスは、故郷の人々の朗らかな姿を見物しつつ町はずれに向かい、やがて、お目当ての友人の屋敷前に到着した。
(むかしと少しも変わっていないな。初めてここを訪れた日のことをまるで昨日のことのように、はっきりと思い起こすことができる)
懐かしさに微笑しながらペロピダスが門扉を叩(たた)くと、ゆっくり扉が開き、
「おお、あなたさまは!」
執事が嬉しそうに老顔をほころばせ、
「お久しゅうございますな、ペロピダスさま。ようこそ、おいでくださいました。どうぞ、屋敷の奥へ」
玄関に招き入れる。
ペロピダスが執事に従って旧友の屋敷に足を踏み入れると、玄関の戸口そばの壁に掲げられている大盾が彼を迎えてくれた。
ぴかぴかに磨かれた円盾の上には、大きな蛇の紋章が描かれている。エパミノンダスの家に代々伝わる由緒正しき防具だ。
(この大蛇の大盾で、わたしは生命を救われたのだ)