ナタリーはさらに何かを言おうとしていたが、
「そうだったのか。だったら僕が連れて行くよ。お金の心配もしなくていい」
私は彼女の言葉を遮り、何の根拠もなくそう言った。
「いいのよ。きっと大したことないわ。私が死んじゃうなんて言ったからなのね。本当にごめんなさい」
ナタリーはすまなそうに私の肩にもたれかかってきた。彼女にとってやはり私は父親代わりなのかも知れない。何せ、私は彼女の母親とほぼ同じ年代なのだ。私は彼女の肩を抱きながらそう思った。いやそう思おうとしていた。
「なんだか雪が降りそうね」
ナタリーは一言そう言うと、押し黙ったまま、助手席のシートに身をゆだねた。
ティナにばれぬよう、家の少し手前でナタリーを降ろし、車をガレージに収めると、大急ぎで玄関の鍵を開けた。そして、セントラルヒーティングのスイッチを入れると、冷静になるべく、机の前に座った。私はこれから二つのことをしなければならなかった。
一つ目、それは彼女の指の黒い筋の正体が何であるのか、そして何故それが死を暗示するような兆しであるのかを知る必要があった。そしてもう一つは、無保険で診察を受ける際の手順とあらかたの料金を知ることだった。しかし、そのどちらも自力で調べる手段がなかった。
私は考えた挙句、編集長に依頼することにした。指の件は家庭医学事典などで調べてもらえばある程度分かるだろうと思ったからだ。問題はアメリカで受診する際の料金だったが、これもくだんの神父に聞けば、おおよそのことは掴めるかも知れないと考えた。
時刻は午後3時を過ぎていた。日本は真夜中であったので、私は編集長への直通電話に依頼のメッセージを残した。その日、雪が降ることはなかった。
3日後、私は電話のベルで目を覚ました。受話器を取ると懐かしい編集長の声だった。
「どうだ、元気にやっているようだな。フィルムは間違いなくほぼ2週間おきに届いているよ。いい写真ばかりで満足している。今の時期は仕方がないのかも知れないが、雪の季節が終わったらまた遠出もしてもらいたい」
編集長はひとしきり仕事の話をし終えると、ところでといって話題を切り替えた。
「一体、誰のことなんだい?」
「隣に住む18歳の女の子のことなのです」
「まさか、その子といい関係になっているというわけではないだろうね」