【前回の記事を読む】「もっとあなたの国のことが知りたい…」ナタリーが限りなく愛おしかった。初デートの車内で彼女が寝始めて…

車は州道9Wを南下し、あっという間にサイモン夫人が住むソーガティーズの町を通り過ぎると、再びうっすらと雪をかぶった森と純白の原野が織りなす光景が広がるのだが、その美しさは雲一つない青空と相俟(あいま)って、筆舌に尽くしがたいものであった。

田舎道とはいえ、除雪はしっかりとしてある。もとより車なしでは生きていけない社会である。それでも、ところどころに雪だまりが残っており、車がスリップするたびに、ナタリーは子供のようにはしゃぐのだった。

気に入った風景が目に入ると私は車を停め、ナタリーに機材の入ったバッグの一つを担がせて撮影ポイントに向かうのだが、道路をはずれれば、膝のあたりまで積雪がある場所もあり、私はナタリーの手を取りながら、歩を進めることもあった。

正直、こうして誰もいない純白の雪原の中で、ナタリーを押し倒して抱きしめたいと思ったことも一度や二度ではない。ナタリーが私に好意を抱いていることは間違いなかった。ただ、その好意が純粋に恋の対象としてなのか、単に東洋人に対する興味なのか、或いは片親であるがゆえの父親への憧憬によるものなのかは分からなかった。

であるから、そのような衝動にかられる時はいつも「彼女にとって俺は父親なのだ」と自分自身に言い聞かせながら、気付かれぬように大自然の中に佇む彼女の姿をカメラに収めるのであった。

私とナタリーが数か所での撮影を終え、ウッドストックの街に辿り着いたのは午後 1時を少し回った頃だった。観光地とはいえ、冬のこの時期、さすがに人影はまばらであったが、お目当てのラーメン店は開いており、それなりに繁盛しているようだった。

経営者は日本人ではなかったし、ラーメンと言っても麺は短く、しかも箸でつかむとすぐに切れてしまうような粗末なものであったのだが、スープの味だけは格別で、他の客は皆、満足そうにその味を楽しんでいる。ナタリーも不器用に箸を使いながら、「おいしい」を連発していた。

そして、それは二人で店を出た時のことだった。窓ガラスが曇るほどの熱気から解放されたナタリーは、その急激な温度差にめまいを感じたのか、突如、踵を返し、ふらつくように私の胸に飛び込んできたのである。そして私に言ったのだった。

「タカオ、私死ぬかも知れない……」

それはあまりにも唐突であり、衝撃的な一言であったため、私は聞き返さざるを得なかった。

「今なんて言った? 何の冗談?」

「私、死ぬかも知れないって言ったのよ」

ナタリーの顔は真剣だった。

「それはどういう意味?」

「これ……」