やがて中岡少年も大学生になり、彼は生まれ育った宮城県仙台市を離れて大阪に引っ越した。そして、学業以外にもアルバイトをするようになった。
彼は梅田駅構内にある大型書店でアルバイトを始めた。アルバイトを始めたことで五百円程度のコーヒー代を払う余裕もできたため、彼は大学生になってしばらくの間は、念願の喫茶店で推理小説を読むということをしていたが、そんな優雅な暮らしは数ヶ月で終わりを告げ告げた。
中岡は法学部に在籍していたが、学部仲間からラクロスの新歓コンパに誘われてついていったところ、いつの間にか入部させられていたのだ。ラクロスの練習は週に五回ほどあった。
しかも練習がなくても、部員同士で飲みに行ったり旅行に行ったりとかなり付き合いは深かった。
嫌なら断ればいいだけの話だが、中高も運動部に所属し筋金入りの体育会系だった彼は、それはそれで好きで楽しかった。
だからいつの間にか推理小説どころか読書からも遠ざかり、結局大学生の頃に読んだ推理小説は十冊にも満たなかった。
そんな彼が再び読書の喜びに浸れるようになったのは、社会人になってからだった。警察官の道を選んだのは、推理小説が好きだったからに他ならない。
推理小説の醍醐味は、「誰が犯人か」「どのように仕掛けたのか」「なぜ犯行に及んだのか」の謎を散りばめられたヒントを手がかりに解くことだが、それを解き明かすのは大抵刑事か探偵である。
しかし、探偵は現実的な仕事ではない。そう考えた時、彼の選択肢は警察官以外にはありえなかった。
警察官は剣道や柔道といった武道も修めなければならないが、筋金入りの体育会系である自分にはそれも適していると思った。
そしてその見通しは当たっていた。警察官は公務員なので、給料は景気に左右されない上に賞与も高かった。
警察官には体力も要求され、覚えなければならないことも多かったが、中岡にとってはそれらさえも遣り甲斐のある楽しいものだと感じられた。
こうして精神的にも経済的にも余裕が生まれた彼が、自由な時間を使って好きだった推理小説を喫茶店で再び読むようになったのはごく自然なことだった。
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