【前回の記事を読む】中学生の息子は毎日19時頃に帰ってくる。(中学生も大変だなあ)と思っていたが、よく見ると、スマホで女の子と……
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中岡がこの後輩刑事と親しくなったのは、今から一年半ほど前のことだった。沖田がどこかの所轄から大阪府警察本部捜査第一課に異動してきたことで二人は顔見知りになったのだが、親しくなったきっかけは、バスケットボールのインターハイ出場を賭けた大阪府予選大会の決勝戦だった。
当時中学一年生で、バスケットボール部に入っていた信之がその試合を見たいというので、中岡は家族そろってその決勝戦を観に行った。
そこで同じく観戦に来ていた沖田と会場でばったり鉢合わせ、中岡と沖田の会話が思いの外弾んだというわけだった。
中岡自身も学生時代はバスケットボールをやっていたし、沖田は球技全般が好きだった。この時初めて、沖田は中岡の妻と息子に会ったのだった。
夜道を歩きながら当時のことを思い出すと同時に、中岡は妻の舞子が言っていたことも思い出した。
舞子は帰路の車の中で「素敵な刑事さんやったねえ。刑事にしとくのが勿体ないぐらいやわあ。あの顔やったら、俳優さんにもなれるんと違う」と言っていたのだ。
今晩「にょおおお」と言いながら酔い潰れていた沖田を見ても、舞子は同じことを言うだろうかと中岡は考えた。
酔い潰れた時に「にょおおお」と意味不明なことを口走るのは、沖田の数ある変わった酒癖の一つなのだ。
やがて中岡の物思いは、舞子と出会った頃のこと、つまり今から約二十年近く前に飛んでいた。
あの頃中岡はまだひよっこの警察官だった。そして、舞子はとてつもなくかわいかった。彼は当時、大阪市内の交番に勤務していた。新米の中岡巡査だった。
迷子になりそうだと言って道を尋ねてくる観光客の道案内をしたり、痴漢にあったんですと言って泣きながら経緯を話してくれた女子高生の対応をしたりしていた。
そんな仕事でも、中岡は人の役に立っているという実感が持てて嬉しかった。他方で、当時の彼のプライベートにおける楽しみは喫茶店に通うことだった。
彼は喫茶店で推理小説を読むことが好きだった。中岡が推理小説を好んで読むようになったのは高校生の頃からだが、なぜか彼には、推理小説を読む最適の空間は喫茶店だという、自分でもよく分からないこだわりがあった。
大人になってからその思い込みの根源を探っていくと、何となく思い当たる節があった。小学生の頃、彼の通学路の途中には喫茶店があり、窓越しには彼の心をときめかせた女性が座っていた。
ときめかせたとはいっても、相手の女性は女子大生だっただろうから、今思うとませた子どもである。
中岡少年にとってはそこが通学路なので毎日その喫茶店の前を通っていたが、彼女の姿を窓越しに見ることができたのは週に一回か二回だった。そして彼女を見ることができた時、彼女は決まって本を読んでいた。きっとそれが理由なんだろうなと彼は思っていた。