その質問は、自分でも驚くほど、子どもじみていた。
住所を聞いているのか、会社名を聞いているのか、自分でも判然としない。
「いま、という意味では、ここにいます」
ミユは、すこしもためらわずに答えた。
「アラタさんのお父さんの視界の中と、アラタさんのお父さんの家のネットワークの中に」
息子が、ちらりとこちらを見る。
「本当の意味では、ですか?」
ミユは、続けて尋ねた。
「“本当の意味”なんてものが、どこかにあるのかどうか、私にはまだ、よくわからないのですが」
その言葉に、私は一瞬、妻の病室を思い出した。
管につながれた彼女の身体と、そこにいるのかいないのかわからない意識のあいだで、どこに「本当」があるのか。あの頃の私は、答えを出せなかった。
「……そうだな」
私は、ゆっくりと頷いた。
「それは、人間にもわからない」
ミユは、ほんの少しだけ目を見開いたように見えた。
それが驚きの表現なのか、単なるアニメーションの一つなのか、私には区別がつかない。
「教えてくださって、ありがとうございます」
彼女は、そう言った。
その言葉が、妙にまじめで、私はまた笑いそうになる。
笑いかけたところで、ふと視界の端が暗くなった。
フレームが少しずれたのかと手で触れると、息子が身を乗り出した。
「お父さん、一回外してみる?」
「……ああ」
少し名残惜しさすら感じながら、私はフレームを外した。
耳から抜き、テーブルの上にそっと置く。
視界から、一瞬にして色が減ったような気がした。
リビングの照明と、テーブルの木目と、花瓶の青。
そのどれもが、さっきよりも平面的に見える。
ソファに目をやる。
そこには、誰も座っていない。
当たり前の光景なのに、胸の奥が一瞬、空気を抜かれたみたいに冷えた。
「どうだった?」
息子が尋ねる。
私は少し考えてから、言葉を選んだ。
「……よく、できているな」
それは、精密機械や、よくできた企画書をほめるときと、ほとんど同じ調子だった。
息子の眉が、わずかに動く。