【前回の記事を読む】90万の車を40万で購入。「50万円分得した」と思っていたが…実は、前の持ち主から名義変更できていない事故車だった。

その3.そしてアメリカへ

私は、実際、大学時代の友人に紹介して貰った、翻訳の会社で少しアルバイトの仕事を始めていた。しかし、その殆どが、コンピュター関連の仕様書の翻訳ばかりで、既にうんざりしていた。

それで、小説も書きだしていると、つい言ってしまった。

「そりゃあいい、それなら、余計、そんな翻訳より、アメリカだ。最近、よく来る中国人のお客さんは、国境警備隊に撃たれながら、○○河を泳いで逃げて、香港経由でサンフランシスコまで来た、小説のネタは腐るほどあるぞ。

丁度、今俺のところで働いているKのお父さんは作家だよ。アダムスキーを翻訳している。出版社、紹介してもらえばいい。生活の心配はいらない。

たまにレストランの仕事を手伝ってもらえれば、後は、俺が最近買った、カマロを貸してやるから好きなことをしてればいい。

もし仕事がしたいなら、サンフランシスコの紀伊國屋の部長を知っているから、紹介する。そして、アメリカが気に入ったら、毎年一人くらいなら、俺の店の従業員として、申請すればグリーンカードが取れるし、そうすれば州立大学なら無料で通えるぞ」

子供の頃から「決断力がない」と兄から罵られ続けていたが、ともかく少し、考えさせてくれ、と電話を切った。

そして先ず、図書館で「Kの父親」を調べると、兄の言った通り、その名前の人が、アダムスキー全集を翻訳しているし、大手出版社から、英会話の本や、ノンフィクションを二三冊、出していた。

アメリカの大学も悪くないな。大学で卒業証明書をもらったらアメリカへ行くか、という気になった。

翌日、また兄から電話が来た。兄が、今回は執拗なので、いずれにせよ、卒業証明書をもらって来なければ、と言った。

すると兄は、「準備なんかしているからダメなんだ。物事なんか、すぐやっちまわないとダメなんだ」と強く言った。そこで、昔から兄に強く言われると同調する癖が出て、つい、「そう言えば優柔不断は最大の悪徳、とデカルトが言っていたな」と言ってしまった。

「そう、そう、そう、デカルトの言うとおりだ」と兄が勢いづくと、もう駄目だった。

二十分後、アメリカへ行くことを、承諾していた。