【前回の記事を読む】「孫と星を見るのが楽しみだとか」…そう言うと、近所の女性の表情が一変した。「まだ癒えてなかったのね。あの人に身寄りはいないわよ?」
ホームランとフォーマルハウト
一
「そろそろ行かなきゃ。ごめんね、足止めして」
おばさんは、聞きもしないことをペラペラと喋って気が晴れたのか、すっきりした顔で離れていく。回覧板の届け先で行われる会議がどんなものか、想像するだけで胸が悪くなりそうだ。
「行こう、おねえさん」
アツシくんが声をかけてくる。「そだね、帰ろっか」と答えて、二度とくぐるつもりのなかった木戸を振り返った。
板塀は、光を落として色をなくした夕景の中で、ひっそりと、その輪郭をおぼろにしていた。入る時とは違う感情が、胸を占める。きっとわたしは、またここに来るんだろうな、という茫とした未来が浮かぶ。
三人はまるで母子のように、山の字のように手をつないで空き地内を歩いた。
道路に出ると左右に分かれた。
手を振りながら遠ざかる、二つの小さな影を見送るわたしは、今週末の天気はどんなだろう、と暮れてゆく西空を見上げて考え始めているのだった。
二
自宅に戻ったら午後九時を過ぎていた。母は、遅くなっても連絡一つ寄越さない吞気な娘を、𠮟るでもなく詰(なじ)るでもなく、平素と同じ笑顔で迎えてくれた。
「お帰り、疲れたでしょ」
小太りの身体で軽やかに玄関まで迎えに出てくれた母は、そう言ったきりですぐキッチンに引っ込んだ。どうだったの、とは聞かない。上手くいった時は自発的に報告する娘。それを知っているから何も言わないのだ。
「帰ったか」