医師の説明と家族の戸惑い

知人の医師も「家族がむちゃをさせた方がいい結果を生んでいる」と言う。家族の問題意識の違いで年老いた患者の回復に差が出る、というのが現実だ。退院十日前にリハビリ専門医より退院後のケアについての面談がなされた。家屋の段差などですぐに受け入れられる態勢がとれず、自宅介護が難しいなら老健施設を、と指導された。

そして母はリハビリ医に聞いた。

「買い物行けるようにはなりますか?」

母にとってはそれが一番気がかりな問題だった。

「それは無理です」

「必ず後遺症が残ります。歩く姿勢も変わります」

「一人で歩くのは無理です」

なんと残酷な言葉だろう。医師は率直に医学的判断を伝えているのだろうが、己の言葉が患者の心にどう伝わるのか考慮していないのは明らかだ。

高齢者の場合は特に「心のケア」が必要である。心理的に鬱状態になると、手足の動きも鈍くなるものだ。さらに、今後のリハビリの頑張りようで生活能力に差が出るのは明らかなのに。これから回復期リハビリを開始しようとする者に水を差す態度のように思えた。

幸い、母の耳が遠くほとんど聞き取っていなかった。ラッキーだった。医師の言葉は私たちの言葉とは違って母には重いのだ。そのリハビリ医は「心のケア」に対する問題意識すら持っていないということかもしれない。

次回更新は7月8日(水)、20時の予定です。

 

👉『九十歳直前から始まった母の十三年介護』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】月に3回、同僚とホテルへ行く習慣ができた。職場の飲み会の帰りにそういう流れになって、恋人はいたけど止められなかった。

【注目記事】その夜、彼女の中に入ったあとに僕は名前を呼んだ。小さな声で「嬉しい」と少し涙ぐんでいるようにも見えた...

 

ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp