鏡に映る自分の顔を見るたびに、髭の伸び具合や眉の濃さが気になる。散髪に行こうかどうか迷ったが、あまりに急に整えすぎるのも、何かを期待しているようでいやらしい。

結局、床屋には行かず、風呂場で自分の髭だけを丁寧に剃った。 

鏡の中の顔は、髭を落としてもたいして若返らない。ただ、顎のあたりの皮膚のたるみが、かえって目立つだけだった。

日曜の午後、チャイムが鳴った。

玄関のドアを開けると、前と同じように、黒いフレームが最初に目に入った。

「おじゃまします」

息子は、少しだけ背筋を伸ばして立っていた。

スーツではないが、シャツの襟はきちんと閉じられている。いつものカジュアルな服装より、ほんの少しだけ、かしこまって見えた。

彼の後ろには、誰もいない。

その事実に気づいて、私は一瞬だけ戸惑う。

「彼女」という言葉が、玄関の空気の中で行き場を失っているように感じた。

「一人か」

口に出してから、その質問が愚かだったと気づく。

息子は一瞬、何かを言いかけて、それから小さく笑った。

「うん。……一人、で」

その「で」の後ろに、見えない何かがぶら下がっている。

靴を脱いで上がり込む息子の背中を見ながら、私は靴箱の上の花瓶に目をやった。

花のない花瓶には、今日も領収書が三枚ほど差し込まれている。

「リビング、こっちだ」

いつも通り案内しながら、自分の声が少しだけ上ずっているのを感じる。

テーブルの上には、今朝買ってきた煎餅と羊羹、それからポットに入れたお茶が置いてある。

湯飲みは三つ、並べた。

並べ終えてから、その数を数え直す自分の手つきが、少し滑稽に思えた。

「座れ」

息子がソファに腰を下ろす。

どう切り出すべきか、数秒だけ沈黙が流れた。

次回更新は7月2日(木)、11時の予定です。

 

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