俺は意外な申し出に、少し戸惑いながらも
「ボタンつけられるの?」
と聞き返した。山口知佳が
「上着脱いでください。5、6分でつけられます」
俺は着古したヨレヨレのスーツの上着を渡した。山口知佳は受け取ると、立ち上がり棚の上から箱を取り出した。恐らく裁縫箱だろう。蓋を開けボタンを一つ取り出し、慣れた手つきでボタンを縫い付けていく。
『そういえば服飾の専門学校生……だったな?』
俺がその手際に感心していると、山口知佳は
「はい! 終わり。ボタンの色が違うけど、そこはカンベンして」
俺は上着を受け取り羽織る。そして亡き妻を思い出した。
『そういえば……昔は妻にこんな風にボタン付けてもらってたな……』
俺は
「ありがとう! ボタンが取れているのには気づいてたんだけど、ボタンをつけるのはあきらめてたんだ」
感謝の気持ちを伝えた。山口知佳が
「彩ちゃんや可奈ちゃんが言っていた通り刑事さんはいい人だった……」
俺に対する素直な感想のようだった。俺は山口知佳が、他の二人と違い動揺した様子も無かったので、気丈な女性なのかもしれないと感じていた。しかし、伝えるべきことは伝えなくては……。
次回更新は6月29日(月)、16時30分の予定です。
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