山口知佳は
「女性の後頭部から血が流れていました。死体の周りにも血が飛び散っていて…………そうだ! ガラス製の灰皿が落ちていました」
俺はメモ帳をめくり、田中可奈子から聞き取りした時に書いた〈ガラス製灰皿〉という単語を丸で囲んだ。俺は聞き取りを続けた。
「他に覚えていることは?」
山口知佳は少し考え
「私が本当に死んでるかどうか確認しようと近づこうとした時、不意に廊下の方から話し声がして……私たちは慌てて逃げ出してしまいました」
俺はこれまで聞き取りした3人の話に整合性が取れていることに安堵した。3人が口裏を合わせている様子もない。俺は最後にあの質問をする。この質問こそが今回の事件(肝心の死体が無いので正確には事件ではない)の鍵を握ると考えていた。
「君たちが逃げ出す前……廊下の方から聞こえた声についてなんだが、覚えている範囲でいい。教えてくれないか?」
山口知佳も俺の気持ちを察してくれたのか、真剣に考えた様子でゆっくりと話し出した。
「確か……『事務所には連絡したのか?』とか『奏馬の様子はどうだ?』とか……あ、後『俺達以外に見たやつはいないな?』とかも言っていたような?」
俺は3人に聞き取りし、改めて今回の一件で確信が生まれた。3人の女の子達はやはり死体を見ている。そして、その死体を〈処理〉した人間がいる……警察が来る前に……恐らく複数人だろう? 短時間で〈処理〉できる人間となると……。
俺は残ったコーヒーを飲み干すと
「時間を取らせてすまなかった。これで帰るよ」
俺は立ち上がると山口知佳が
「刑事さん! 少し待って。袖のボタン一つ取れてますよ! ボタン……つけてあげましょうか?」