「来たいのなら来ればいい。こっちから誘うわけにはいかんが、来るものを拒む理由もないしな」
子供に夜の外出を焚きつけるなんて、やっぱり社会常識に難ありの人物のようだ。いっそ子供は来るな、と言われた方がこっちも断りやすくなるのに。
「やった。いつだったらいい?」
アツシくんが無邪気に喜ぶ。ホームランボールのゴタゴタなど忘れたようだ。望遠鏡を覗けることがよほど嬉しいらしい。
「しばらくは月もないし、君らのいい時でいいよ」
「次の土曜は? 土曜はママ、特に遅いんだ」
そんなつもりなかったのに、土曜日なら都合がいい、とつい頷いてしまった。水口さんも人の良さそうな笑顔で、コックリと首を動かした。
「今の季節は暗くなるのが早いから、気をつけておいで。押せば開くように裏の木戸はあけておくから」
別にいいか、約束したってわけじゃないし。うっかり忘れたってことにして、来なければいいだけの話だ。この子たちだって必ず来るとは限らないんだし。
「じゃ、これで失礼します。君たちも行こうか」
縁側から降りて頭を下げる。話している間に陽はすっかり傾いていた。頭上の空はわずかに青灰色を残しているが、屋根の庇の向こうはきれいな夕焼け色だ。
「おじさん、約束だよ」
同じように庭に立ったアツシくんが念を押した。余計なことを言うな、と内心舌打ちしながら裏木戸に向かった。そんなわたしを、少年と少女が追い抜いていく。
木戸を出る際一度振り返った。お辞儀するわたしたちを、寂しそうな目が見つめている。その目から逃れるようにして木戸を閉じた。長年の風雨で傷められた表面は、ところどころささくれ立っていて、瘦せた木目が、まるで老人のあばら骨みたいに浮き出ていた。
次回更新は6月19日(金)、11時の予定です。
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