「――どうかね? もし良かったら」
遠慮がちな声で我に返った。ぼんやりしていたので肝心な部分を聞き逃したみたいだ。
「あの、すいません。もう一度……」
「ああ。いえね、興味がおありなら、望遠鏡、覗きに来たらどうかなと思ってね」
「望遠鏡? 夜にってことですか?」
「はい。あんた――じゃない、空木さんさえ良ければですが」
「でも、よそのお宅に、それも夜にお邪魔するのは」
「ここにはワシしかおらんから。気兼ねはいらんよ」
「はあ」と曖昧に返して、続く言葉を飲み込む。
『そういうことじゃなくて。こっちは若い女で、高齢でもあんたは男なんだよ』
やや常識に欠けるお誘いだと思う。迂闊に「イエス」なんて言えない。
「僕たちもいい? 望遠鏡、覗いてみたい」
アツシくんもお招きを受けたいらしい。天文少年なら当然だろう。この子たちがいたらわたしは要らないんじゃない? ぜんぶ丸投げってことで。
「君らは近所の子かな。夜だよ、お母さんがいいとは言わないだろう?」
「ママが帰ってくるのはいつも遅いから、平気さ」
水口さんが短いため息をついた。少年の話から複雑な家庭環境を読み取ったようだ。孤独の寂しさはよく知っているよ、とでも言うような、悲し気でそれでいて柔和な表情で語りかける。