展望台の上で

タワー中央の展望台があるメインデッキまで来た。高さ150メートル。展望台の窓の向こうは真っ暗で、警備員の姿もなさそうだ。見つからないよう念のため、展望台の屋根まで上がってひと休みする。

かつてエレベーターで訪れた時、メインデッキには足元がガラス張りになっている仕掛けがあった。覗き込むと、末広がりの鉄骨の間から、ごま粒のように地上を動いている人の頭部が見えた。ガラスの厚さは十分なのだろうが、両足の体重を預ける気持ちにはなれなかった。あの日、いっしょに隣にいたのは誰だったろう。

屋根の上は風も強い。想像していたよりずっと高さを感じる。スーツを通して鉄骨の冷たさが伝わってくる。腕はさほど疲れていないことに自信を覚え、そろそろ上をめざすことにした。立ち上がって腕を振る。次にめざすのは250メートルにあるトップデッキだ。

何とか辿り着くと、屋根に降りて、正面左右をぐるりと見渡す。眼下には360度、都会の光の海がどこまでも広がっている。光あるところに人がいる。そして光はエネルギーそのものだ。多くの人々が寝静まっていても、東京にはパワーがみなぎっている。

私は圧倒されながらも、この風景を独り占めしている自分に酔った。空を飛ぶ夢を見たことがある人はそれなりにいても、自らの意志で東京タワーのトップデッキに飛び降りられる人はいないだろう。

それにしても家を出てから今まで、他の鳥人間に一度も遭遇しなかったのはなぜだろう。今夜ほかに飛べた人はいないのだろうか。それとも偶然飛べたことがラッキーくらいにしか思っていないから? 私のように自分の意志で飛べるかもと馬鹿なことを考えなかったから?

「なぜ私だけは自分の意志で飛べるようになったのだろう?」

頭の中で疑問だけがぐるぐるとわいてきた。

次回更新は6月17日(水)、11時の予定です。

 

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