前々から思っていた事だが、御殿場から中国戦線へ送り出された馬が、帰って来た様子は全然見られないんだに。国中で何万頭が徴発されたか知らねえが、仙石原の馬草を食んで育った馬達、ここ御殿場からだって数千頭は下らないだに。戦果の陰で、兵隊さんと共に身命を捧げて起き上がれず、戦列から置いて行かれて野末の土になってしまったのかと思うと、心が痛んで仕方なかったさ…」
「なるほど、そういう見方も成り立つわけか…。確かに日本軍の輸送力は馬に頼っているから、戦力の一端を担っていたのも事実です。道なき道を進む戦線ですから、限界を超えれば倒れて当然。異国の地で眠るしかなかったのでしょう。戦果については、私は口にする事は出来ません」
「ふうーむ…。肝心な所で話が折れるな…。仕方がないか…」
「そんな事ないですよ。今年は紀元二千六百年で、海軍では末尾の零を取って零戦という艦上戦闘機が戦列に加わります」
「そうか…。それでは好転を祈ろう。今日は最後になって、ちょっとだけ打ち解けた話をしたもんだ。良い一日だったに…。哲に感謝しよう…」
俊介の母親由紀は途中からいねむりしながらの聞き役となって、御開きとなったのである。
【イチオシ記事】目を閉じると、柔らかくて温かいキス…膝が折れそうになった私を彼が支えてくれて「ずっと、こうしたかった」と囁かれ…
【注目記事】彼が舌を滑りこませる直前に離れた。もの足りなさそうな嘆息を漏らす彼。そして今度は私のほうから唇を下ろしていった…
ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp