家族一同は、暗い時局で押し殺されていた心底から笑い喜び合う事を、哲の誕生によって久し振りに噛み締める一時を過ごしたのであった。

夕食後、両親と俊介の三人は、相変らず何の話題か話を弾ませていた。俊介が珍しく多弁になっていたのだ。ところが突然思い出した様に、それ迄の笑顔は消えて、頼み込むような話し振りに変った。

「折角の雰囲気を壊してしまう物騒な話になるけど、この機会に伝えておきたいと思います」俊介は一呼吸置いて、徐に話し始めた。

「実はね…。父さん、母さん、自分もいつ中部太平洋の海軍基地に出征するか、わからない状況です。国中は紀元二千六百年の記念行事で浮かれているけれど、動きの速い不可解な国際情勢、特に米国とはのっぴきならない状況に追い込まれているんです。

もとより日中戦争は膠着状態ですから、国内の戦時体制は必然的に厳しくなる一方です。

僕が突然の出征の時は、伸子の事、哲の事、宜しく頼みます」

真顔の俊介が深く頭を下げて依頼する事など、一遍たりとも無かった事だ。又二郎夫婦は感じ取ったのである。

それは国が、陸軍が、そして海軍が、いや俊介迄もが何かに追いつめられているという事を……。しかし又二郎は顔色一つ変えず、答えを返した。

「そんな事! 当たり前じゃあないか…。それよりも新聞は、日中戦争の戦果をいつも大々的に報道していたけれど、やっぱりはかばかしくなかったという事だら…。