働きながら学ぶという事は、一言で言えないようなさまざまな苦労があったが、一番辛かったのは眠気と空腹であった。学校は午後5時40分に始まる。
一日の労働を終えて学生達はそのまま登校してくるのだが、授業が終わる午後8時40分まで何も食べずに過ごす。
それを聞いた町のパン屋が、それは気の毒だとパンの出張販売を申し出てくれた。学生達は手をたたき歓声を上げて、パン屋の厚意に感謝した。
苦労をして過ごした4年間。冬の寒さの中、ストーブの上でするめやもちなど焼いて分け合って食べ、互いに励まし合って過ごして来た。
しかし眠気だけはどうする事もできなかった。そんな時、恩師の田中先生は「自分のために学ぶのだから頑張るように。将来必ず、学んでおいてよかったと思う時が来る」と励ましてくれた。
しかし中には、脱落して行く者もいた。こんな辛い思いをして勉強しても何の役にも立たないと言って、不良仲間に染まっていく者、学業についてこられない者、月謝の払えない者もいた。
そんな生徒達の中でただ一人、向学心に燃えて頑張っている女生徒がいた。
彼女の名は通称澄ちゃん。学業は優秀、真面目な性格で、クラスのアイドル的な存在。
4年間頑張り通して見事卒業を迎えた。卒業式では、困難を乗り越えて学び続けた彼女の姿勢を、同窓生一同が万雷の拍手で称えた。
一郎に定時制高校で学ぶ事を勧めてくれた同窓生のA君は、立派な成績で卒業し、さらに近くの大学に籍を置き、勉学の道を歩むという。
入学当時、惨めな思いに苛まれた一郎も、この4年間で全日制の高校では学ぶ事のできない貴重な体験ができたと考えるようになった。
特に、社会における人間同士の信頼関係がいかに大切であるかを4年間で学ぶ事ができた。同窓生達も卒業を目前にして、入学時の姿とは打って変わり、一段とたくましさを増して一人前の社会人として変貌を遂げた。
卒業式の当日、学生達は卒業証書を手に、それぞれ希望の道を目指し、大きく手を振りながら校門を出て行く。
一郎は母校の正門に向かって、「4年間、大変お世話になりました。ありがとうございます」と大きな声で礼を言って深々と一礼。
励まし合い共に学んだ学友達と大きく手を振って、それぞれの道へと別れて行った。あいつらは、みんな頑張り屋だ。きっと立派な社会人となるだろう。
今度会えるのはいつの事だろう。3年後か、いや、5年後かもしれない。俺も頑張るから、お前らも元気で頑張れよ。一郎は心の中でエールを送った。
さらば学友達、幸運を祈る。この時一郎は19歳、昭和36年の春であった。
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