【前回の記事を読む】怒鳴る母の姿がどんどん離れて、遠くに見える。周りの風景もぐらぐらし始め、母の声も聞こえなくなって、やがて…

一 折檻を恐れた幼少期

恐怖による支配

母は怒らせると怖かった。

ある日、僕がなにをしでかしたのかは覚えていないのだけれど、母は僕の着ている服を無理やり全部はぎ取り真っ裸にすると、抵抗する僕を風呂場に連れていった。

僕はなにが始まるのかわからず怖くて、とにかく「ごめんなさい、ごめんなさい」と言い続けていたが、次の瞬間、バケツに入った冷たい水を思いっきり浴びせられた。

母は水を何度も汲み直しては、バケツに勢いをつけて僕に水を打ち付けた。水をかけるときの母の形相は怒りに歪み憎しみに満ちていた。

僕は何度悲鳴を上げたのだろう、「お母さん、ごめんなさい、もうしませんから……」と。

断水だと知らずに、台所の流し台に溜めてあった洗い桶の水を、片づけのお手伝いをしようと流してしまったときも、「お手伝いしようと思ったんだよ」と説明したが、それでも叱られ折檻を受けた。

また、近所の人が転勤かなにかで挨拶に来ていたとき、母は餞別として紙に包んだ紙幣を渡そうとしていたのだが、なかなか受け取ろうとしないので、僕は相手の女性が中身がなにかわからないので遠慮していると思い、「その中、お金だよ」と親切心で言ってしまったこともある。僕は、あとで手ひどく叱られ引っ叩かれた。