逃げ道がない

子どもの頃は、そんなこんなでいつも叱られていた。「いつも」というのは、文字通り「いつも」で、正確にいえば、ほぼ毎日だった(叩かれない日があると、「今日は、叩かれなかった」と安堵したことを覚えている)。

叱られるときは常に痛い思いをしなければならなかった。往復ビンタがいつも待っていた。

常に身構える習慣が身についた結果、僕の体はいまでも常に緊張していて、薬を飲み続けなければ調子が悪くなる。薬を飲んでいても、太腿には常に力が入っていて、気づくと緩めるのだが、すぐにまた力が知らないうちに入っている。

リラックスということを知らない。なぜか逃げるということができなかった。

よくテレビなどで、怒る母親に「くそばばあ!」などと悪態を吐(つ)いて逃げる子どもの姿を見ることがあるが、そんなことをするなど考えたこともなかった。安心して悪態を吐ける関係にはなかった。

母は、僕に気を付けの姿勢を取らせ、両頰を何度も引っ叩いた。

泣き出すと「当り前の罰を受けたのだから泣くんじゃない」と怒られたが、「自分は間違っていないと思うのなら、叩かれても泣かずに正々堂々としていなさい」とも言われた(結局、逃げ道はないのだった)。

だから必死で涙をこらえたのだが、ときによっては、母に「『うん、お母さん、わかったよ、次から気を付けるね』となぜ笑って答えないのか?!」と迫られた。

僕はなんとか笑顔を作ろうとしたが、どんなに頑張っても引きつった笑顔にもならなかった。