「夕方から出られそうか」オホトが遠慮がちに聞いてきた。

「誰が受けてくれたのでしょうか」恐る恐る聞いてみた。

「馬來田マキタじゃ、黒妃の一番下の姫じゃが、あれから昨夜、丁度通りかかっての。案外、背格好もそなたと変わらんかったからの」と、途端に大王は弾けたように笑い出した。

「婚儀が終わってからの、もう誰とも結婚できなくなったと、わしに泣きついてきたわ」

子供たちの中でも、気が合うのか、一番人懐こく可愛い馬來田姫。縁が繋がっていくのをオホトは感じていた。

「まあ、式の間中、大きな扇で顔を隠しているし、一言の返事もさせなかった。父の横で、ただただ座っていてくれと三人で頼み込んで、母クロは勿論、誰とも口を利いてはならんぞ、と昨夜は此処で花嫁役の予習じゃ。稚子や倭が妙に張り切っての、面白い見世物になったようじゃった」

それはそれは、王妃の疲れようが分かった。

夕方からは「お披露目」。

目を離さない大王オホトの横で、手白香の「妃」としての一歩が始まった。

宴もたけなわとなり、静かに宮へ引き揚げた手白香妃のもとへ、怪訝そうな大伴金村が二人の少女を連れてやってきた。一目で妹たちと分かった。二人ともやせ細り、気丈に見せているところが痛々しい。手白香はかつての自分を重ね合わせて見ていた。

三人とも腹違いの妹たち。肩を寄せ合って生きていかなくてはならない王女たちに大和の未来はないと、大伴は必死の覚悟でこの婚儀に臨んできたのだった。

他の大和豪族たちには一切知らせず、特に物部氏や蘇我氏には気づかれないよう、姫たちに従者の格好をさせ、息長氏の先導で琵琶湖の草津や今津、そして塩津を避け、何とか愛発から此処、御国(ミクニ)の大湊まで辿り着いたのだった。

十五と十三の姫たち、まだ子供だわ。

長旅の疲れとこれからの不安で押しつぶされそうに縮こまっていた。手白香妃は、どう妹たちに声掛けすればいいのか分からず、白湯を勧めながら、涙目を笑顔で隠そうとしていた。

そこへ、

「よう来た、よう来た。みんな一緒じゃ、私も父がいない、孤児同然ここ越で育った。良かった、良かった」大声張り上げながら、大王オホトが入ってきた。

 

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