【前回記事を読む】倭海を行き交う船のほとんどが越の船!? 航行技術の高さから、朝鮮出兵の折に水先案内をするのは越人エビスと決まっていた
四、 大王、意を決する
梅雨も明け、はや今日は「七夕」。
桜色の手巾に「黄菊」の刺繍を手に、手白香姫は王妃稚子の宮へと急ぐ。
――「七夕」、織姫にあやかって針仕事の上達をお祈りする儀式は、女性たちだけの集まりらしい――
青々とした東中庭には、白麻の幕が張られ、初夏の日差しを遮っていた。
巫女三人が出迎えていた。
「手白香姫がおいでになりました」と、稚子妃の横へ導く。
「では、始めましょう」巫女が大陸から伝わる織女と牽牛の物語を話し出した。
「お聞きください。年に一度の逢瀬は今夜だけ。
天の河の東に織女在り、天帝の女なり。
年々に機はたを動かす労役につき、雲錦の天衣を織り、容貌を整える暇なし。
天帝その独居を哀れみて、河西の牽牛郎に嫁すことを許す。
嫁してのち、機織りを廃してしまった織姫。
天帝怒りて、河東に帰る命を下した。
一年に一度だけ 会うことを許す。
今年も、織女が無事牽牛に会えることを祈りましょう」
筵(むしろ)と茣蓙(ござ)が敷かれ、机が出されてきた。
立派な瓜に金と銀の針が刺さっている。その横に五色の糸が添えてあった。
「お妃様方、お手持ちの花印の手巾を前にご用意くださいませ」と巫女。
「五色の糸で縁取りをなさって頂きましょう」
金と銀の針にそれぞれ赤・青・黄・緑・黒の糸を通し、縁をかがっていく。手白香姫にとって難題である。縁取りが分からない。と、年若い巫女が手を差し伸べて「お手本をどうぞ」と、一枚の手巾を見せてくれた。
刺繍のない白無地のものだったが、縁取りがとても綺麗だった。
「以前王妃様から頂いたものです」
「素敵ですね、ありがとうございます」と素直に感謝の意を示す手白香姫に、皆が手を止め目をやる。
「初めてですか」「頑張って」「糸目の数を数えながらね」あちらこちらから声援が上がり、和やかな雰囲気に包まれていく。
その様子を、巫女が大王へ伝えに本殿へ向かった。