「ではお妃様方、出来上がったものをこちらへお持ちください」と、巫女が漆の朱盆を中央の机に置いた。自然と品評会になる。花印の刺繍から縁取りの出来具合は、妃たちの手先の器用さに加え、性格も表れているようだった。
「どんな塩梅かの」ひょっこり、いつの間にか大王がのぞき込んでいた。
すると習わしなのか、
「大王様、今宵お待ち申し上げます」
妃一同揃って声を張り上げた。
オホトは照れながらも、手白香姫の手巾を見つめていた。
五、 婚姻
あの夜、手白香姫の運命が決まった。
「七夕」は女性の集い、夕方からは「火祭り」、男たちの舞台となる。
火祭りは梅雨が明け、農耕の重要な祭りでもある。青々と膝丈まで伸びた苗に虫が付かないよう、火の虫よけ・虫追いである。方々の山々から若者たちが奇声を発しながら、火の玉を点けた縄をぶんぶんと回しながら田んぼへ入っていく。
そして大潟へと辿り着き、間伐された木材が山のように積み重なった薪に放り投げられていく。
あちらこちらで大潟の岸を回り込むように火柱が立っていった。夜の湖が灯りで縁取りされ、その周りをそれぞれの集落の者たちが取り囲んでいる。
すると、足羽山から火玉が飛んで行った。大潟の中央に三つの大筏が山となり其処に命中し、燃え盛った。その炎は大きく、天にまで届くようだった。
手白香姫は寝所から見える風景に見とれていた。湖面をくっきり照らしているお月様が煙たそうだと、にんまりおかしく想像していた。
「下界も天界の星々のようであろう」
突然、大王オホトの声が響いた。
手白香姫が振り向きざま足元の階段を踏み外し、倒れ込んでいく。「大王様」
大王がすばやく抱きかかえて、
「手白香、待っていてくれたか」
大王のがっしりと頑強な腕が、手白香姫を寝所へと、有無を言わさず運んでいった。
月と星々が、男女の営みを静かに見守っているかのような「七夕」の夜。
光陰矢の如し、あっという間の夜長月。
眼下の稲田は見る間に黄金色に変わり、あちこちで刈り取られて枷場(はさば)で天日干しされていく様子が興味深く、手白香姫は外ばかり眺めている。