「面白いか」

「ええ、民の暮らしが此処から手に取るように見えるんですね」

「そうだ、コメ作りは何事も共同作業。他の国と比べても実りが違う、わしが見張っておるからのう。まあ、地形が分かりやすいから、皆が皆、大事に見守っておるかもしれん」

――そう、こここそ桃源郷なんだ、越の民が羨ましい――

「明日は満月じゃ。重陽の月に、いよいよ婚儀となるが、手白香大丈夫かな。最近顔色が優れぬようじゃが」

大王オホトは他の妃たちの宮へ寄っては必ず、手白香姫の宮で休んでいた。朝の早い二人だったが、ここ数日の手白香姫の様子が違うように感じていた。

婚儀前日の朝、手白香姫をのぞき込み、

「今日は、明日からの大事な決め事のおさらいじゃが、大丈夫か」と、心配しながら出ていった。

手白香姫は身体が重く、匂いに敏感になっている自分に気づいていたが、大王の妃になる緊張が日増しに募ってきたせいだと思う。

「今年一番の新米です」と、昼餉の知らせを受ける。

大王、王妃、倭妃と、婚儀の打ち合わせに来た。

炊き上がったばかりのほかほかつやつやのご飯が恭しく手白香姫のご膳に差し出された。

思わず、鼻と口に手をやり顔をそむけた手白香姫。ハッと、倭妃が王妃に目くばせし、医者を呼ぶように伝えた。大王が傍らで手白香姫の肩を抱いていた。

ほどなく医者の見立てで、子供ができたことが分かった。

 

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