【前回記事を読む】明日に控えた結婚式。だが、彼女の様子がいつもと違う…翌朝、「新米の臭い」を気にするそぶりを見せて——

五、 婚姻

「手白香にややこができた」大王にとって何番目のお子になるのか、

「おめでとうございます」両妃にとっても、何回目の祝言を言っているのか。

「明日の婚儀に二重の喜びが重なり、大変めでたいこと」王妃稚子妃は、からかうように大王に目を向けた。御年五十六歳の大王はさすがに照れて、

「稚子、それ以上手白香の前で何も言わないでくれ」と、弟のように懇願した。

亡き王太后に手を引かれ越の国へ逃れてきたのは、実は先の越大王が突然崩御したのも幸いし、すんなりと王族の一員として認められた経緯があった。当時王太后本家の稚子姫が、ふさぎ込む大王の相手になり、自然な流れで最初の婚姻となった。今ではもう、姉弟のような関係だと王妃稚子は感じていた。

「ややがこの腹に」手を腹部に置いたまま驚きを隠せない手白香姫、二十歳。

「嬉しいか」大王が尋ねた。

「明日からの三日間は勿論だが、大伴金村がそなたの妹二人を連れてきた」

顔も知らない二人の妹、どう挨拶すればいいのか、いろんなことが頭を駆け巡り、手白香姫は気を失った。

起きたら翌日、お日様は真上に、昼過ぎだった。

大王が赤い婚礼衣装に身を包み、手白香妃を見舞っている。

「婚礼の儀は」ガバッと飛び起き、オホトに掴みかかる手白香妃。

「無事終わったところだ」と、涼やかな声のオホトだが、涙ぐむ手白香妃を見て、

「すまない、ヤヤコのこと、今はまだ隠さないと、代役しか思いつかなかった。他の者は誰も気が付いていないようだった」と、下手な慰め、言い訳にしか聞こえないか。

そこへ、王妃が疲れ切った様子で、寝室に入ってきた。

「お加減は如何ですか。仕方なかった、あれから三人で文殊の知恵出し合って、代役を立てました。ごめんなさい、本当にごめんなさい。人生の晴れ舞台を勝手に変えられたらどんなに悲しいことか」と、一気に手白香妃に言った。

手白香妃は気が付いた。

ああ、大王にとって王妃が一番の味方なんだと。王太后や他の妃たちとのことも、何もかも王妃が解決してきたのだと。納得するしかなかった。

思わず手を合わせ、

「こちらこそ、不甲斐ない私を助けて頂き、ありがとうございます」

と、感謝する手白香妃に、

「いいえ、大王が今日の分を一生かかって妃に返してくださるでしょうから」

優しく言い添え、「ではまた」とそそくさと出ていった。