【前回の記事を読む】新宿に似た猥雑でローカルな地域「ゲイラン」。ある食べ物の屋台が珍しいが、タイでは飲酒後に食べると死に至るという…

【第一章】食を巡る冒険

我がドリアン記念日

一時期、タイの内政をカバーする目的で、タイ字紙や英字紙を山ほど読み込んだことがありましたが、新聞の社会面などで、飲食後ドリアンを食べてあの世に行った人の記事にぶち当たることは皆無でした。タイ人同様シンガポールの人たちもドリアンが大好きです。

しかし、タイ人と比較してみますと、シンガポールの人たちは、形はさほど大きくなく、グニャグニャするような柔らかな歯触りで、少し匂いのするクセのあるドリアンを好むようです。

バンコク在住の邦人が好む、匂いが強くなく、果肉が厚く、見た目がタイ語の名前の通り「黄金の枕」にも見えるモーン・トーン種のドリアンは、シンガポールではさほど好まれていないようでした。

シンガポール人のドリアン趣向の話となりましたが、芸術家岡本太郎さんの母親で小説家の岡本かの子さんは、小説『河明り』(青空文庫)のなかで、次のように書き残してくれています(表現の中に不適切と思われる箇所がありますが、そのまま引用させていただきました)。

「ドリアンがあると、こっちへいらしった記念に食べた果ものになるのですがね。生憎(あいにく)と今は季節の間になっているので……。僕等には妙な匂いで、それほどとも思いませんが、土人たちは所謂(いわゆる)、女房を質に置いても喰(く)うという、何か蠱惑的(こわくてき)なものがあるんですね」若い経営主は云った。

その昔、銀座の千疋屋(せんびきや)では、一万円程度でドリアンを販売していた時期があったそうです。

最近、我が家のある千葉の九十九里の某スーパーにて三千円のドリアンが販売されていましたので、思わず購入してしまいました。購入後、ドリアンのお尻を嗅いでみました。

さほど匂いがしなかったこともあり、少し間をおいてから食すべく、日陰においておりましたら、いつのまにか腐敗が始まっていました。大変もったいないことをしてしまった、残念至極と、反省しきりです。

最近、文庫本として出版された『ドリアン』(岩波文庫)という本を見つけました。ドリアンを紹介する本、それも文庫版がこの日本でも出版されるようになったことに驚き、時は過ぎゆき、時代は確実に変わるものだとしみじみと感じ入ったことでした。

最後になりましたが、未だにドリアンを試食していない皆様、また、ドリアンを試しても好きになれなかった皆様。すべての皆様に、いつの日かドリアン記念日が訪れてくれることを切にお祈りしてこの章を閉じたいと思います。