その目を持った若武者は、僅かなその瞬間の後、面変わりしたように又唇を引き結び、正面を見据えて朱雀門を入っていった。
その若い白拍子はかの大将軍が御門の奥に消えてゆくまで、その後ろ姿を見詰めていた。
「静(しずか)や」
と、後ろに立っていた年増がその娘に声を掛けた。
「さすがは大将軍様、大したものよなぁ。妾(わらわ)等も折よく見られて、眼福であった事よ」
「お母様、さらばあのお方が、名高き義経公にござりますか」
静と呼ばれた若い白拍子はそう母に問うた。
「そうとも、一ノ谷で平家を倒した英雄のお方よ」
すると脇に立っていた仲間の一人が、
「それでもなんやら柄の小さいお方よな。あのお方が大将軍様でおいでか。妾はほれ、今そこをお通りになるあのお方の方がお強そうで好もしわぁ」
楽しそうにそう云って、周りの朋輩と突つき合いながら、並び行く武者たちの品定めをしている。それぞれに色や趣向の違う装束を見極め、それを纏う者の男振りを見定める事に夢中になっている仲間達をそこに残し、静は一人その場を離れて四条坊門(しじょうぼうもん)小路の家へと帰っていくのだった。
静の感じたその男の心映えは、一目惚れにありがちな勘違いでもある。この大将は凡下の心も持つが、戦にあっては人を人とも思わぬ殺戮の将でもあった。しかし現し世では、勝てばその者を英雄と呼ぶ。
注1 敦盛公:平清盛の甥
注2 公達:平家の子弟