【前回の記事を読む】彼女が高貴な身分であることは一目瞭然だった。白金の靴先を覗かせながらロングドレスを曳き、語りかけてきて…

一、地底湖の王女

〈何のこと? 私に知らない過去なんてあったの?〉

心の中でつぶやいた途端、リフィエラは頷いた。

「あなたの過去には封印された秘密が眠っている。けれど急がなくていいわ。その追憶の扉はあなたが望むときに開かれるでしょう」

口にしないことを見透かされている。しかも次々と不可解な言葉を投げかけてくる。おののくジュランの魂は揺らされ波紋を広げたが、リフィエラの慈愛に満ちた容貌を見ると懐疑は自然に解けていった。忘却の彼方に落ちた真相が、今まさに復活しようとしていた。

リフィエラの所作はすべてがみやびで、身のこなしは宇宙へ連動する芸術の律動を成していた。星のまたたきを織り込んだ銀の絹糸の如く品格を充たす麗髪は、翡翠の緑を透かしている。頭上に気高くも異形の美を形造る黄金の冠が燦爛と輝いている。

威容の象徴から発せられる光彩に畏怖で凍りつくジュランは、その冠が星雲を凝縮した秘儀の器に思えて、言い知れない魅惑に引き寄せられた。

「こちらへいらっしゃい、ジュラン」と、リフィエラが手招きした。

「あなたのお住まいですか?」

リフィエラは不意に頬を上げた。その微笑は、雪崩れ落ちる淡雪が水晶の上で舞い散る一瞬の幻影を思わせた。

「あなたの好きだったこの宇宙船を覚えていないのね」

「私の好きだった宇宙船?」

ジュランは愕然としながら、人智を超えた巨威を誇る宇宙船を仰ぎ見た。船体は光輝に覆われ、崇美の極みとして聳えていた。

〈宇宙船がなぜ地底に? 自分はかつて乗ったことがあるのか? 記憶が、思い出が……何もなく、頭のどこかが崩れていく……〉