【前回の記事を読む】好きだった宇宙船も、お気に入りのゲストルームも、見覚えのある彼も――私は何も思い出せない
一、地底湖の王女
リフィエラが壁に組み込まれたパネルを操作すると、ふかふかの寝台とテーブル、水晶で造られた浴槽が現れた。そこへ、人の形に似たロボットが入って来て、無言でジュランに一礼した。
ぎょっとしている彼女に、「この侍従とあなたは仲良しだったのよ」と、リフィエラはパール色の頬に、薔薇が朝露で潤うような気高い微笑を咲かせている。
〈言われてみれば、どことなくこのサイボーグみたいなロボットにも見覚えがある〉と、なぜか親しみを覚えた。
「ここにいる間、あなたの身の回りの世話をしてくれるわ。あなた方の感覚ではアンドロイドね。超AI頭脳を持つヒューマノイドなのよ。遠い宇宙の異なる世界で作られたから『コスモロイド』と呼ぶことにしているわ。感情はないけど気の利く侍従コスモロイドよ」
宝飾で象られ、プラチナに輝く体躯を具えた侍従コスモロイドは、ジュランの背丈よりやや高く、無表情で静止し、状況に応じて自律的に動いていた。
リフィエラの目くばせに応じ、コスモロイドが純金のグラスに注いだ水をジュランに差し出した。リフィエラに勧められ、澄みきった天然の湧き水を口にした。
すると、心身の重荷が軽くなっていくのを感じた。コスモロイドはもう一つのグラスを純金のトレイに載せてきた。
「地球人の体に合う栄養素を、かつてお兄様が調合してくださった特別なエキスを再現したのよ。あなたは宇宙船にいたとき、これをいつも食事代わりに飲んでいたの。覚えてないでしょうけど」
〈どうなってるの? いったい何が起こっていたの? 頭がおかしくなりそう。リフィエラの話が本当なら、異次元に住む彼らから、自分はどれほどの庇護を受けていたのだろう〉
困惑しつつグラスを受け取った。丁寧な物腰の従順なコスモロイドとリフィエラの優しさに嘘偽りはなかろうと、どぎまぎしながら翡翠色のエキスを飲んだ。栄養素が体中に染み渡り、そこはかとない悦びと安らぎに包まれる感覚を覚えた。
リフィエラの親身な世話はそれだけにとどまらなかった。ゲルマニウムなどの美容に最適な成分を調合した、格別な泥浴を用意してくれていた。
コスモロイドが操作すると、しっとりとした上質の泥パックを思わせる液体が浴槽に流し込まれた。
きっちり折りたたまれた紫色のガウンを両手に載せたコスモロイドを従えて、リフィエラは部屋に付属するバスルームを兼ねた洗浄室の使い方を説明した。
一瞬にして着衣から髪や足先まで、靴や持ち物に至るすべてを洗い清め、乾燥させる――驚異的な超ハイテク洗浄室兼更衣室だった。
自失状態のジュランには、謎に満ちた状況を問いただす気力さえ残っていなかった。ガウンに着替え、教えられた通りに泥パックの浴槽につかり、いつしか忘我の境地に入っていった。
〈身投げしたつもりは微塵もないけど、間違えてあの世へ来てしまったのだろう。現世にない技術と美の祭典。もう二度と下界へ戻りたくない〉
「あら、あなた、死んでしまったと思い込んでいるの?」
ひやりとして、ジュランは心地よく閉じていたまぶたをかっと見開いた。