「えっ? ちょっと、待って! 私、今、気が付いたのだけれど。皇后様、そう、稚鷦鷯のお母様って、幼武様の御息女よね」
山田はパチパチとまばたきを繰り返した。そして、細い目を一杯に見開き、稚鷦鷯と日爪を交互に見遣った。稚鷦鷯は目を伏せ、静かにうなずいた。
「なんてこと。それじゃあ、お父様は、ご自分の父親を殺した人の娘を皇后様にしたの?」
稚鷦鷯は下を向いたまま、首を縦に振った。
山田は口を手で押さえ、大きく空気を吸い込んだまま息を止めた。日爪は幼い孫娘の頭を優しくなでた。
「しかたなかったのだ。天照大神様の血筋を守るためには、お二人が夫婦になるしか道がなかったのだ」
「うん」
稚鷦鷯は無表情に言った。
「みんなが言っている。父上と母上は、天照大神様の直系の血筋を残すためだけに婚礼をあげたって。母上も数少ない直系の血筋。その血を残すために、皇后にならなくてはいけなかったし、どうしても、男の子を産まなくてはならなかった。そうなのでしょう。じじ様」
男と女が結婚する、その意味もわからない幼子が問いかけてきた。日爪はため息をついてうなずくしかなかった。
「それなのに、皇后である母上にも、側室の方々にも男の子が産まれなかったのだ。女の子ばかりが産まれてきたって」
「そうね。稚鷦鷯にはお姉様は多勢いるけれど、お兄様も弟君もいない。私にはきょうだいもいないし……」