「さて、どこから話せばよいものか……。そうじゃの、まずは幼武(わかたけ)様(第二十一代雄略(ゆうりゃく)天皇)の話から始めよう。幼武様は大変お強い大王であった。それは知っておろう」

「ええ。もちろんよ。幼武様は稚鷦鷯のおじい様で、皇后様の父上。大和を一つにまとめた、偉大な大王よ」

山田は快活に答えた。

「そうじゃ。しかし、幼武様は、大きな過ちを犯した」

日爪は声をひそめて、話を続けた。

「自分が大王になるために、多くの人を殺めたのだ。押磐(おしは)様も殺されたお一人」

「押磐様って、えっ、私たちのおじい様。お父様の、お父様よね。若い頃に亡くなったって聞いたけれど。殺されたって、本当に?」

山田の問いに、日爪は深くうなずいた。

「そうじゃ。押磐様は幼武様の従兄弟(いとこ)にあたる。押磐様は去来穂別大王(いざほわけのおおきみ)(第十七代履中(りちゅう)天皇)の第一皇子であったし、お人柄も良く、利発な方で、押磐様が日嗣の皇子様になるであろうと言われていた。ゆえに、幼武様は押磐様が邪魔だったのだ。

ご自分が大王になるためにはな。それで、幼武様は……。いや、押磐様だけではない。秀でた直系の男子は、次々に葬られた。

押磐様の子供であった億計様と弘計(をけ)様(第二十三代顕宗(けんぞう)天皇)のご兄弟は、その時はまだ年端もいかぬ子供であったが、それでも命を狙われる可能性は高かった。それで、自ら身をお隠しになったのだ。幼武様はお二人を見つけることはできなかった。ご兄弟は食うや食わずの生活をしながらも、安全な場所で生きることができたのだ」

「お父様は、大変な苦労をされたのね」

山田の言葉に、日爪はため息をつきながらうなずいた。

「しかし、大和の困難はその時から始まっていた。皇子様、そう、男子の子供が産まれなくなってしまったのだ。天罰だったのかもしれん。幼武様の後に大王となった、白髪(しらか)様(第二十二代清寧(せいねい)天皇)はお子に恵まれず、とうとう日嗣の皇子様すらいなくなってしまった。由々しき事態じゃ。

白髪様は大王の血筋である、億計様と弘計様を探した。すると、播磨(はりま)の国で牛飼いをしていたご兄弟が見つかった。

そして、白髪様がお隠れになった(崩御(ほうぎょ)すること)あと、先に弟君の弘計様が即位したが、やはりお子には恵まれなかった。次にお前たちの父親、億計様が即位したのだ」

日爪は一つ、息をついた。山田は湯呑みを手に取り、ぬるくなった白湯を口にした。そして、焦点の合わない瞳をして考えにふけった。

日爪が話を続けようと唇を開いた瞬間に、山田が口をはさんだ。