その年の夏、私は再び北海道を訪れた。

今回は、認知症カフェで知り合った仲間たちと一緒だった。みんな、認知症の家族を介護した経験を持つ人たちだった。

「杉山さん、ここがお母様と来た場所なんですね」

仲間の一人が言った。

「はい。6年前に、母と一緒に来ました」

ラベンダー畑は、相変わらず美しかった。紫色の絨毯が、どこまでも広がっている。

「きれいですね」

「母も、同じことを言っていました」

私たちはラベンダー畑の中を歩いた。それぞれが、亡くなった家族のことを思い出しながら。

「私の母も、花が好きでした」

仲間の一人が言った。

「認知症が進んでも、花を見ると笑顔になったんです」

「わかります。私の母もそうでした」

私たちは、それぞれの母親の話をした。認知症との闘い、介護の日々、そして別れ。共有できる経験があることで、心が軽くなった。

「杉山さんが作ったお母様の本、読みました」

別の仲間が言った。

「とても感動しました。私も、母の記録を残しておけばよかった」

「今からでも遅くないですよ。覚えていることを、書き留めておくだけでも」

「そうですね。やってみます」

その夜、私たちはホテルの部屋で語り合った。それぞれの介護経験、後悔、そして学び。

「完璧な介護なんてない」

私は言った。

「私も、たくさん失敗しました。母に辛く当たってしまったこともあります。でも、大切なのは、最後まで一緒にいようとしたこと。愛情を持って接しようとしたこと。それだけでいいんだと思います」

仲間たちは頷いていた。

「杉山さんの話を聞いて、救われる人がたくさんいますよ」

「ありがとうございます。でも、私も皆さんに救われています。一人じゃないって思えるから」

窓の外では、星が輝いていた。北海道の澄んだ空気の中で、星は一層きれいに見えた。

「お母さん、見てる?」

私は心の中で呼びかけた。

「私、一人じゃないよ。仲間がいるよ。だから、安心してね」

 

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