「私、いつかブラックジャック先生みたいなお医者さんにもなりたいんです。漫画の人物に憧れて将来の夢を決めるなんて景浦さんに笑われちゃうかもしれませんけど」
景浦は「それも立派な動機だよ」と目を細めた。
(良三。たまにはお前もイイ仕事をするじゃないか)
「ほ、本当か、雄作」
「こんなことで嘘なんか吐いてどうするんだ」
若菜と話し合った内容を報告するべく、景浦は翌夕も良三を呼び出した。例のごとく碁盤を挟んで向かい合い、適当に駒を置いてから学費を用立てる旨を伝えると良三は驚きのあまり飲んでいた茶が気管に入り、むせてしまう始末だった。
「勘違いするなよ。あくまでも貸すだけだ」
「お、おう。いや、それでもありがてぇよ。ありがとうな」
言いながら良三は景浦の手を取って拝むように何度も額をこすり付けた。
「よせ、らしくもない」
「でもよぉ……」
「いいさ。どうせ眠ってた金だったんだ。未来ある若人に使われたほうが金だって本望だろう」
妻もそのほうが喜んでくれるはずだ、と自分に言い聞かせた景浦は優しく良三の手を引き剥がした。
(コイツの手はこんなにもヨボヨボだったか。昔はこの手で戦闘機の操縦桿を握っていたとは思えんな)
次回更新は5月9日(土)、11時の予定です。
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