【前回記事を読む】子どもの笑顔を見ると、嘘をついて許してしまう。甘さが子育ての失敗に繋がると理解していたが…

Case:B 元・医者の選択

「若いあいだはどうしたって勤務医になるが、病院に雇用されている立場である以上、経営陣の経営方針や根本的な医療、患者に対する考え方の相違なんかで教授や上層部の医師との関係性に悩むケースも多々出てくるはずだ。だからといってイエスマンになるのも良くないが、匙加減を見誤ると二度とこの世界で雇ってもらえなくなることも頭に入れておいてくれ」

「二度と?」

「あぁ。大人の世界は汚いんだ」

「なんか……いやですね、そういうの」

「正しいと思うことがあっても、いや、実際には本当に正しくても医療現場は年功序列の色が強いから、発言権がない状況にあっては意見や提案を述べることが出来ない場合だってある。その時はグッとこらえるんだ」

「景浦さんもそうしたんですか?」

「……仕方なく、な。これだけ聞くと医者を目指したくなくなるだろう」

「ちょっとは……。でもずっと一線で戦ってきた人の貴重な意見だから下手に励まされるよりマシです」

(強い子だ。さすが、良三の孫なだけはある)

「こんなことばかり言ってからでなんだが、やはりワシはこの仕事を選んでよかったと心から言える。『医師』という職業の楽しさは医学を学んだうえで実臨床に臨むことで教科書で読んだ疾患が本当に存在し、適切な治療によって治っていく過程を見ることができるところだと思う。

医師は診察・検査から病気を予想し、治療方針や手術の内容・手順などを検討する。その後、手術や治療の過程で実際に病状を確認していくが、自分が予想した内容と実際の病状の答え合せを繰り返すことで予想を確実なものにするスキルが向上していく。スキルが向上することで医師としてより多くの患者の役に立つことができることは嬉しいものだ。