俳句・短歌 歴史・地理 歌集 日本列島 2020.10.04 歌集「秋津島逍遥」より三首 歌集 秋津島逍遥 【第28回】 松下 正樹 “忘れえぬ旅をまたひとつ三十一文字に封印す” ――日本の面白さに旅装を解く暇もない 最果ての無人駅から、南の島の潮の香りまで、まだ見ぬ土地に想いは募る。 尽きせぬ思いが豊かな旅情を誘う、味わい深き歌の数々を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 亡き魂をなぐさむ供物ありしゆゑ 群れる鴉は人を恐れず 岩山をくだれば宇曾利湖さざ波の よする浜にも供花は置かれて ふれふれときけばきこゆる奥山に 赤翡翠の雨よぶ声す *赤翡翠 南方から渡ってくるカワセミ科の夏鳥。
エッセイ 『プリン騒動[人気連載ピックアップ]』 【新連載】 風間 恵子 「そんなプリンなんか作ってないで、早くメシのしたくしろ!」台所で一挙手一投足に怒り狂う義父。言葉の暴力が鉛となって心臓を突き抜けた。 ある晩のことだった。三人で、夕食のしたくをしていた。この三人と言うのは、舅(しゅうと)・姑(しゅうとめ)・嫁すなわち、私の事である。台所は女の神聖な場所と考えられているのではないか。しかし、この家では、舅が当たり前のように立つことが多い。自分が調理したものは自慢をするが、人の作った料理は決して、美味しいとは言わない。逆に貶す事に喜びを感じるタイプである。野菜の切り方から、味つけまでを一つ一つ指摘…
小説 『魂業石』 【第14回】 内海 七綺 あいつを殺して作ったダイヤ。深海のような藍、本当に綺麗…一つじゃ足りない。もう一つ欲しい。次は誰にしよう 家族旅行で行った夜の市の雑貨店にぽつんと置かれていた、夜光貝の魚が泳ぐ黒い漆塗りの箱。その中には赤いビロードが敷かれていた。普段ものを欲しがらない雪子には珍しく母にねだったが、「子供には高価だ」と一蹴された。だから母の財布からお金を抜き取って、夜にこっそり買いにいった。物欲には乏しいが、幼い頃から一度欲しいと思ったら我慢できる性質ではなかった。これと思ったものは、それがどんなに高価だろうと入手困…