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佳代は、転院日の朝9時には病室に到着し、会計を済ませた。訓太郎の着替えも終わり準備完了である。あとは、リフトタクシーを待つだけである。訓太郎はゴルフウエアー風のダンディな装いであった。

佳代も訓太郎と同系のカジュアルなパンツルックである。佳代は90才に届こうというのに、姿勢はピンとしており体型も崩れておらず、身長もあり手足が長く、肌も老いていない。キビキビした動きなど、只者ではなさそうな雰囲気がある。

リフトタクシーの赤石運転手は9時45分に到着した。佳代は訓太郎を車椅子に座らせ、9時50分には水上担当看護師に挨拶をした。

「本当にお世話になりました。渡瀬の命を救っていただき心より感謝しております。残りの人生を大切に生きて行きます。他の看護師さんや津島先生を始めとする先生方にどうかよろしくお伝えくださいませ。ありがとうございました」

発車準備が整うと赤石は、「はい、これ」とスマホを佳代に手渡した。「しばらく預からせてね」とすまなさそうに佳代は受け取った。

リフトタクシーが走り出すと佳代は自分のスマホを取り出してどこかに電話をかけ、「渡瀬です。そちらの病院には入院しないことになりました」とだけ話して「あっ!」と叫び、スマホをわざと膝の上に落とし、慌てた様子で電話を切り、電源をオフにした。

リフトタクシーは、国分寺地域病院とは逆の方向に向かって、飛ぶように走って行った。

朝の11時、流星中央医療センター11E病棟は騒然としていた。異様な空気が吹き荒れていた。医師も看護師も顔面蒼白状態である。大きな声を出す訳ではなく、目と目でキビキビとした会話をしている。水上看護師が津島医師に状況報告をした。

「先ほど、転院して行った渡瀬さんの奥様から国分寺地域病院に電話があり、『入院しないことになりました』と言われたようです。病院が詳細を聞こうとしたら、携帯電話を落とされたような音がして、それ以後不通のままだそうです。

病院では、当院から事情説明があると思い連絡を待っていたけれど、連絡がないので当院に電話をしてきたようです。こちらを朝10時に出発して貴院に向かいましたと答えましたが、リフトタクシーに問い合わせたところ、国分寺地域病院に向かっているはずだけど、予定時間になっても帰庫していなくて、電話をしても連絡がつかないとのことです。もちろん、病院の中も探しています」

津島医師が聞いた。

「奥さんのスマホには連絡をしたのか?」

「もちろんですよ、電波の届かない所だって」

「自宅の固定電話にもしたんだろうな」

「留守録が回っていたから、至急、国分寺地域病院に電話するようにメッセージを入れました」

「病棟を出る時、気になる様子はなかったか?」

「いいえ、交通事故なら連絡が来るはずだし」

「警察に捜索願を出したのか?」

「私の権限では出せません。家族が出すものですよね。もし、出すとしたら病院として出すようになると思います。その前に村上部長への連絡が先だと思います」

「分かったよ」と津島医師が電話を取った。

 

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