【前回の記事を読む】就職先の30代派遣社員がヤバすぎた。正社員の私を呼びつけ、「暇なんだよ。いいじゃん、ちょっとくらい」断ることができず…
第一章 カリスマの降臨
〈7〉
桐谷が入社して2か月、またしても不可解な出来事が起きた。
オフィスのベランダに、犬が飼われ始めたのだ。
「田下支店長、これ……誰の犬ですか?」
桐谷が素朴な疑問を投げかけると、田下はパソコンを打ちながら目も合わせずに答えた。
「大将の」
――大将。
大将とは、60歳過ぎの派遣スタッフで、派遣スタッフの親玉的な存在である。完全なる職人で、現場仕事のプロだ。大将も帰るところがないのか、帰れない事情があるのかわからないが、桐谷が入社する前から支店に住みついている。
どこかの現場で拾ったのか、大将が犬を連れてきたらしい。
田下は、30歳も年上で、派遣スタッフのリーダー的な存在である大将のお願いを無下に断ることができず、オフィスで犬を飼うことにした。
日中、大将が現場に行っている間は、桐谷と田下がその犬の世話をする。(会社で犬を飼うなんて……この支店、やっぱりどこかおかしい)
桐谷の疑念はますます深まった。
支店長も派遣スタッフも毎日オフィスに寝泊まりしている。
夜になると派遣スタッフたちはアダルトサイトを見ながらビールを飲み、つまみを食べる。
翌朝、それらの片付けをするのは、いつも桐谷の仕事。
そしていま、オフィスのベランダで犬が寝そべっている。
この光景を、支店長の田下は黙認し、パソコンに向かって仕事を続けている。
(これが、本当に“会社”なのか……?)
桐谷の中でイメージと現実のズレがじわじわと広がって、悶々としていた。
そのとき、桐谷の携帯の着メロが鳴った。大学時代の友人・高瀬からだ。
「桐谷お疲れー! 今週金曜日、水道橋でみんなで飲もうって言ってんだけど、桐谷も来れる?」
「金曜? ああ、行くよ」
ジャストタイミングだ。桐谷はどうしても大学の友人たちに聞きたいことがあった。
金曜日、大学があった水道橋に5人が集まった。
「おー! 懐かしいなー!」
開口一番、高瀬が笑顔で声を上げた。
「懐かしくねーだろ。卒業してまだ2か月だし」「え、まだ2か月? もっと経った気がするな」
「お前、ちょっと老けたんじゃね?」
「アホ。会社では“10代に見える”って言われたぞ」
「嘘つけ。老けヅラ代表みたいな顔して」 懐かしい大学のときの雰囲気。
相変わらず友人たちは明るかったが、桐谷はその会話に入るほど元気がなかった。
ナイスホープに入社して2か月、おかしなことが起こりすぎている。自分だけが本当に老けた気がする。
「桐谷、どうしたん? 暗くね?」
高瀬が気を遣って声をかけた。
桐谷は率直に切り出す。