【前回の記事を読む】深夜23時頃・駅前を嗅ぎまわる1人の会社員。彼の標的は、身分証すら持たない“浮浪者”だった。その理由は——

第二章 弱小の強心(きょうしん)

〈6〉

沼津支店も売上成績が悪かったため、望田も必死だった。望田はまだ入社したてで、右も左もわからず精神状態もギリギリだった。ただ、決して執念だけは絶やしていない。

“1人でも埋める”“1件の依頼も逃さない”。その望田の気迫が、桐谷の心中にあったモヤモヤを吹き飛ばしてくれた。

(そこまでして売上を上げようとしている後輩がいる……俺もとにかく行動を起こさないと)そして、静かに天井を見上げた。

(俺にも……まだやれることがある)

望田のおかげで北井の残像が吹っ飛んだ。

〈7〉

翌日から、桐谷は大企業に絞って営業をかけた。

(小さな契約を積み重ねても埒が明かない……なんとか大口顧客を獲得したい)

大企業は、派遣スタッフの稼働人数も桁違いだ。だからこそ、契約が取れれば一気に数字が跳ね上がる。だが、それだけに商談のアポイントがなかなか取れない。門前払いが当たり前だ。

桐谷はこれまで何度も電話をかけたが玉砕(ぎょくさい)している。それでも諦めるわけにはいかない。

朝9時。桐谷は以前から攻めていた大手企業の工場の前に来た。

東京ドーム4個分くらいの広大な敷地だ。社員や派遣スタッフがぞろぞろと吸い込まれていく。

(間違いなく派遣の需要がありそうだ)

ここは何度電話してもアポイントが取れなかった企業。しかも守衛の監視が厳しく、飛び込

み営業で中に入ることはできない。

まずは中に入って、担当者と商談しなければ話にならない。

(……よし、行くか)

桐谷はひとり言を呟いて、守衛所に向かった。

守衛所は高速道路の料金所のような造り。立っている守衛の死角、ちょうど守衛の目線の真下をくぐれば、気づかれずに中に入れるかもしれない。

桐谷は、前かがみになって一気に守衛所の下をくぐり抜けた。

(……やった)

守衛に見つからず、敷地内に侵入できた。