【前回の記事を読む】営業先の会社でフォークリフトに…。興奮状態の男性が「どけ!」と叫び、「キーッ!!」という轟音とともに……
第二章 弱小の強心(きょうしん)
〈7〉
それから1か月――。
桐谷は大企業に狙いを絞って営業し続けたが、結果は惨敗だった。
ある朝6時。派遣スタッフの出発コールを受けながら、桐谷の体はブルブル震えていた。
(寒い……全身が重い……)
受話器がまるで鉛のようだ。悪寒がして、意識が朦朧(もうろう)としてくる。
そして8時半。内勤スタッフが出社してきたその瞬間、桐谷は受話器を握ったままバタッと床に倒れた。
「桐谷さん! 大丈夫ですか!」
スタッフが駆け寄り、桐谷は車で病院に運ばれた。
「熱が40℃あります。風邪と、かなりの疲労です。今日はしっかり休んでください」
点滴が終わると、朦朧としていた桐谷の意識がだいぶ戻ってきた。
桐谷はその日、何日ぶりかの休みを取った。翌朝。桐谷が支店に出社すると、スタッフが駆け寄ってくる。
「桐谷さん、もう大丈夫なんですか!」
「ああ、もう大丈夫。熱も下がったし。昨日は心配かけてごめんね」
桐谷がそう言うと、
「昨日、ジャパン物流センターの鈴木様という方から電話がありまして、折り返し連絡が欲しいとのことでした」
「……え? ジャパン物流センター!」
先日、フォークリフトで轢かれそうになったあの会社だ。
急いで電話をかけると、その日の午後に鈴木氏とアポイントが取れ、すぐに商談を行った。そして、奇跡が起きた。
ジャパン物流センターから、なんと100人規模の大型派遣の依頼を受注したのだ。どうやら急な依頼が発生したようで、すぐにでも人を集めたいらしい。
「ありがとうございます!」
桐谷は尋常ではないほど大きな声で感謝を叫んだ。
(諦めずに行動すれば、必ず道は拓ける)
これまでの苦労が走馬灯のように駆け巡り、熱いものが込み上げてきた。それからの日々は、目の回るような忙しさ。人を集めるのに必死で、沼津支店の望田からも派遣スタッフを送り込んでもらい、桐谷は毎日現場に張り付いた。
内勤スタッフも、必死で依頼を埋めようと休日返上で働き続けた。
そして1か月後――。静岡支店は、ついに1年と2か月ぶりに売上ノルマを達成した。
桐谷の献身的なフォローで、ジャパン物流センターの桐谷に対する信頼は大きい。
「桐谷さん、うちの関連会社でも人が足りていなくて……桐谷さんを紹介してもいいですか?」
「もちろんです! ありがとうございます!」
そこから紹介の連鎖が始まった。関連会社、そのまた関連会社、そして取引先へと、新規契約が雪崩を打ったように増えていく。
それからの1年間、静岡支店は一躍、圏内で最も活気のある拠点に変貌を遂げた。桐谷にとって、この年は人生で最も短く、最も濃密な時間となった。