岩下は未だ欠勤を続けているが、なぜか仕事は回っている……という状況が続く中。千春がランチから戻り、パソコンの前に座ると、礼が千春の元へやってきた。
「水瀬さん、さっきチャットで送ったんですけど」
「うん? 何?」
礼に言われてチャットを開くと、何枚かPDFの見積書が送られてきていた。
「これは?」
「今、うちから外注でデザインをお願いしている会社がありますよね」
「ああ、フラットさんね」
礼が言っているのは『フラット株式会社』という小さなデザイン会社だ。相手は千春がこの部門に転属されるより前から業務を依頼していた古参で、千春の会社からいくつかの部署が外注でバナーや広告用画像などのデザインを請け負ってくれている。
「フラットさんではなく、他社に変更することを検討していただけないでしょうか」
「え……? なんで?」
付き合いも長く、ずっと懇意にしてきたこともあり、向こうの事情もある程度わかっている。うちからの外注契約を1つでも切られたらかなり経営にも影響が出ること、社員も数名の小さな会社で社長が自ら各方面に飛び回り営業をしていること、その社長とも何度か飲みに行って、これからも末永くお付き合いよろしくお願いします、と挨拶を交わしたこと……それらが千春の頭をよぎった。
「外注先を変更したい理由は大きく2点あります。納期に遅れることが多いこと、クオリティが足りなくて戻しが多いこと。これが良きパートナーである、とは言えなくないですか?」
次回更新は4月9日(木)、11時の予定です。
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