【前回の記事を読む】ボーナス査定 1次考課──Eマイナス。「……は?」5つの査定項目を見て、その理由がはっきりと分かった。

おごそかな挨拶

「黒沼の周辺には鉄パイプやスパナ、ドライバー、ナイフなど凶器になるようなものは置かないように言われていました」

「穏やかではないですね」

「はい、だから不気味で……」

「確かに不気味ですね」

「坂下さんはいつも心配していました。だから工具箱も電気炉のほうに移動したのです」

「坂下さんには何か心当たりのようなものがあったのかな? 黒沼さんには前科があったとか?」

「わかりません、でも何か起こってからでは遅いから一応耳に……。それだけです」

渡辺はただならぬ言葉を残し、コッソリやって来てコッソリ戻っていった。再びあの疑問が湧いて出る。前任の坂下係長とは? 原因のわからない洗浄機の故障に妙な仕掛けをしていると断じ、黒沼の近くに凶器となるようなものを置くなと言う。何か特別な事情がありそうだ。

当の黒沼はほとんど毎日早い時間にやって来て、皆が来る前に仕事の準備をしている。そのような人物が自分勝手で凶暴とは思えないのだが。

夏のボーナス査定、新島は黒沼の一次評価Eマイナスを二次評価でC評価に直した。評価の変更は新任の自分がやるべきことではない。それはわかっている。しかしEマイナスにはできない。何も証拠はないのだから。

気象庁が梅雨明け宣言をしたその日、事件が起こった。第二工場の駐車場に止めてあった車がボコボコに壊されたのだ。

噂話が大好きな村木が見てきたように話す。この人はいつも作業着の襟を立てている。

「ガラスはめちゃくちゃ、ボンネットはボコボコ、車内にでかい石が入っていたって」

腕を組み、話を聞く渡辺がポツリと、

「恨みだな」

捜査員の口調で断定する。

「車種は?」

立ち話を渡辺が完全にリードしている。村木がありったけの未確認情報を披歴する。

「白のソアラらしいけど……」

「色は白で3ナンバー、高い車だな」

渡辺は真顔になって洗浄機の方向をチラリと見やり、その後、近藤と何やらひそひそ話を始めた。事件は第二工場で起こったもので、ファイバー一係は部外者の立場だが、近藤と渡辺は深刻に捉えている。