【前回の記事を読む】「残業するなら送っていきますよ」。私の動機は、部下の姉に対する“個人的な興味”だった——事が上手く進み…
おごそかな挨拶
残業に入るまでの十五分休憩は愛煙家の新島にとって貴重な時間である。いつものベンチで空を見ながらタバコを燻(くゆ)らせる、それはいつもの行動パターンになっている。いそいそとベンチに向かう途中、千葉さんに声を掛けられた。
「聞きましたよ、黒沼さんを送っていかれるのですネ」
「はい、残業してくれるってことなので私が志願しました」
「ご苦労さまです。私も一緒していいですか?」
「えっ! それは?」
「違います、違います。ベンチにご一緒しても……」
「ああ、そういうことですか。もちろん大歓迎です」
ベンチに腰を下ろすとやはり暑い。昼間のうちに暖められた熱がベンチ本体から伝わってくるのだ。この時間ほかの人たちが屋内喫煙所に集結しているのも頷ける。
「黒沼さんのこととかありがとうございました。私それが言いたくて」
千葉さんにいきなり感謝された。
「私は何も……それよりいつもテーブルに花を飾ってくれて、こちらこそありがとう」
「フフ、今回は私の番でした。キキョウソウです」
「今回は?」
「はい、最初の頃は私が飾っていました。そしたら近藤さんが俺にもやらせてくれって言うので、今は三人の班長さんが交代で花を飾っています」
「あの近藤さんが花を?」
吹き出しそうになった新島を見て、千葉さんも口を押え小さく笑った。
「結構真剣に花を捜しているみたいですよ。面白いって言っていました」
「そう、良い職場ですね」
「新島さんのおかげです」
「いえいえ、私は何も……それよりこの前の話の続き、糸さんの話聞きたいなー」
新島は黒沼糸という女性に興味津々、彼女の話なら何でも聞きたい。いつかの夢……青いゼリーのお菓子をくれた美しい人……未だに黒沼糸さんとイメージがダブっている。
「黒沼さんのお姉さんは急性の白血病でした。糸さんのお見舞いに行ったときのこと、話してもいいですか?」
「ぜひぜひ……」