【前回の記事を読む】「病気になった」——その姿はまるで天使に見えた。ステンドグラスから降り注ぐ、月夜に照らされた彼は銀色に輝いていて…

第一部

三 異変

到着したのは昔ながらの町中華のお店だ。

暖簾をくぐると、正面のカウンターに置かれた可愛らしい黄色の招き猫が出迎えてくれる。

健ちゃんおかえり〜と女将が元気に声をかけ、暖簾を下げ閉店させた。私がきょとんとしていると、向井は子供の頃からお世話になっている、お店だと教えてくれた。

テーブル席に座り、店の作りが昭和風で珍しく、医者も庶民派なお店を利用するのだと思った。

壁一面に貼られている短冊のメニューが珍しく、私は中華唐揚げの定食を、向井はレバニラ炒め定食を注文した。

熱々のおしぼりで手を拭いながら向井が身の上話を始めた。

父方の家系は代々続く開業医で敷居が高く、それが窮屈で苦手だったと。

実家は長兄が継いでいるし自分は末っ子だから割と自由にさせてもらっていたな、などと話している。私はよく喋るなと、思いながら黙って聞いていた。

お冷やを持ってきた女将が、向井が女の子を連れてくるなんて、珍しい事もあるものだと驚いている。

「スタッフの春子さん」私を紹介してご機嫌だ。

女将が「こんな時間まで、こき使われちゃたまらんね〜、ははは」と大笑いしたが、向井は私をこき使ったのかと、その言葉にショックを受けたようだ。頭を抱えている。