【前回の記事を読む】子供の頃からずっとある古いホテルに初めて入った…「代金は前払いね」。支払いを済ませると、店員にルームキーを手渡され……
第四章
今日東京を出発したときには、この地で宿泊するつもりなど微塵もなかった。
だが、せっかく来て、しかも遥香があの家にいることまでわかったのだ。一泊して、遥香に明日もまた会いに行ってみようと思った。
このホテルの宿泊費は一泊三千円。最近アルバイトのシフトもあまり入れていない自分にとっては、喜んで出せる金額ではない。それでも、実家に帰る選択肢はなかった。
あの人たちの顔はできるだけ見たくない。きっと、あの人たちもそうだ。過ちを犯した僕を、両手を広げて迎え入れることなどしない。
「なんで帰ってきたの?」、「また変なことしてないでしょうね」、「帰ってくるなら連絡くらいしなさいよ」……。
きっとこんなふうに言われるだけだ。肩身の狭い思いをするくらいなら、三千円を払ってでも、このホテルに宿泊した方がマシだ。
意外にも地下の大浴場は綺麗で、いい湯加減だった。虫がわんさかいそうだから、さっと浸かる程度にしておこうと思っていただけに、つい長風呂してしまった。
[やっほー! どう? いい感じに解決できてる?]
風呂から上がり、部屋に戻ると、前園さんからメッセージが届いていた。彼女には今日実家に戻ることを伝えていたのだ。
僕は一緒にカフェに行ったあの日から、彼女に対して持っていたイメージを大きく変えた。狭い畳の部屋に身体を預ける。
[うまくいきそうだよ。ありがとう]
メッセージを送信すると、すぐに返信が来た。
[それはよかった! お土産待ってるね~]
前園さんはあの性格だから、自然と敵に回してしまう人も一定数いると思う。実際に僕もそうだったから、よりそう思う。
ただ、接してみて思うのは、実はかなり人をよく見ているのではないかということだ。今日ここに来ることだって前園さんが背中を押してくれなかったら、またうじうじと一人で考え込んで、無駄な時間を過ごしていただろう。
彼女はきっと冗談でお土産をねだっているのだろうが、彼女の行動にお土産程度では申し訳ない。ちゃんと感謝の機会を設けた方がいい気がする。