【前回の記事を読む】家を張り込んででも、遥香に会いたい。今日を逃したら当分チャンスはない。だが彼女の親にバレたなら少なくとも、通報・警察沙汰になるだろう…
第四章
谷岡先生は、遥香に会いに来たという僕が、まさか遥香の実家に赴くとは思わなかったのではないか。無理もない。遥香の実家に行くということは、彼女の両親と顔を合わせることになる。谷岡先生は、僕がまさか彼女の両親と顔を合わせるリスクがあるのに、わざわざ実家になど訪れないだろうと、そう勝手に解釈をしたのだ。
そうなると、遥香は普段、実家と白ヶ丘を往復する生活を送っているということになる。白ヶ丘でいったいなにをしているのかはわからないが、これは確実に大きな一歩に違いない。
今日は午前中に白ヶ丘を訪れ、十四時に緑川家に到着するように行動しよう。一日の行動スケジュールを作成した僕は、ざばっと風呂から上がると、早速身支度を始めた。
市街地に位置するホテルから白ヶ丘までは、バスでおおよそ三十分程度かかる。バスに揺られる間は、ほとんど変わり映えのない田園風景が続いている。
こうして見ていると、前に進んでいるのかわからなくなる。たしかにバスは前に向かって走っているのに、この地そのものが小さな球体になっていて、何度も同じ道を延々と走っているのではないかという錯覚を生じさせる。
その感覚は今の僕に近いものだ。遥香を探して見つけることが、本当に正しいことなのかわからない。三年間蓋をしていた僕の心の中に、ほんのわずかに芽生えた好奇心と欲望のうえに、僕はここにいる。
これが本当に僕が願う結末を運んでくれるのだろうか。そもそも、僕が願う結末とは、なんだろう。僕は自分の行動になにかを期待しているのだろうか。遥香に、遥香の両親に、許されることを見返りとしている?
幸か不幸か、長く続いた田園ですら、僕のあてのない思考に勝ることはできなかった。『白ヶ丘』と書かれたバス停の停留所を示す看板は、色が褪せてしまい、ところどころさび付いている。おまけに少しだけ傾いている。
この地で生まれて十八年、僕は白ヶ丘という場所に初めて降り立った。実はここがどういう場所なのか、よくわかっていないのだ。同じ地域にあれど、なにか特別な施設や観光名所があるわけではない。だから、わざわざ来たこともないし、なにがある場所なのか興味を持って調べたこともない。