【前回記事を読む】手足の切断が最小で、絶対的な救命策だった戦時下の医療。腹や胸の深い創傷は手の施しようがなかった――
第四話 軍医たちの活躍
―戦場で外科医の地位が上がった―
腹や胸に深い傷を負った者は見放された
体腔内への手術などは夢にも考えることなく、からだの外側への医療のみに専念していたのが、「床屋医者(理髪外科医)」や「金創医」などの当時の「外科(ソト科)」の医療者だったのです。
<こぼれ話 ヒトのからだは美しい>
現代の大災害時の救急医療では、負傷者の治療の優先順位を判定するトリアージが行われることがあります。
気の毒なことに、この時代に生まれた兵卒たちは、腹部に深い傷を負ったらもうおしまいで「救命の可能性なし」の黒タッグを貼られてしまうことでしょう。
彼らは「北斗の拳」の主人公に秘孔を突かれた悪漢と同じで「お前はもう死んでいる」と言われても仕方がなかったのです。
わが国のサムライの切腹も「私はすでに死に向かっている」の明確な意思表示で、むしろ、多大な苦痛を長引かせないために介錯(斬首=即死)が求められました。
17~18世紀の軍医の記録にも、老兵が「これが慈悲だ」と腹部重傷者の首の動脈を切ってやる話が出ています。
ちなみに、激戦を展開中の野戦病院では「重傷者は急いで手当をしても戦力にはならない。止血と包帯だけで次の突撃に参加できるような軽傷者への手当が最優先だ」という話を、第二次世界大戦時の軍医経験者から聞いたことがあります。
時代と場合によって医療の優先順位は変わるものですね。
現代の災害現場などのトリアージでは、緊急の救命処置などが必要な重傷者が赤タッグとなり、最優先で救急医療の対象とされることが当然です。
けれども、これが封建時代のことだったら、身分が高い王侯貴族はたとえ軽傷でも優先的に手当を受け、身分が低く貧しい兵士や庶民は重傷で放置されても仕方がないことだったのです。
最新式の高度(高価)な医療はお金の余裕のある人たちだけのもので、貧乏人は必要最小限の医療すら満足には受けられないという状況も近年まで続いていました。
「社会保険では良質な治療は無理だ」と放言する医師や歯科医師がいまだに存在するのも、世界各国での現実です。
現代のアメリカでも、入院費が払えない貧乏人は病院から放り出されるという事実を訴えた映画「Sicko」がありました。