「教条」への疑問

パレはもともと心優しい性格でしたから、ただでさえ痛みに苦しんでいる負傷者の傷口に熱した油を注ぐ、炭火で真っ赤に灼熱させた焼き鏝(ごて)を当てる…まだ「マスイ」は知られていませんから、だれもが絶叫します…そうした作業に心を痛めていました。

権威ある医学者たちから教えられた「鉄則」、つまりはるか以前から絶対視されてきた「教条」への疑問が、彼に生じてしまいました。

そこで、自分の頭で考えて実験して得られた結果のほうを重んじることにしてみたのです。

それからのパレは、沸騰させた油や焼き鏝の使用を全廃しました。創傷の手当には、傷口をきれいな湧き水でよく洗って、軟膏を塗ったガーゼと清潔な包帯で保護する方式に切り替えたのです。

手足の切断などの際に噴出する血液も、焼灼止血ではなく、血管を探し出して糸で結紮(けっさつ)して止血する方法を見つけ出しました。それら以外にも、さまざまな愛護的創傷処置法を考案して試みていますが、それまで無批判的に繰り返されてきた伝統的な方法よりも、良好な結果が得られることが少なくはありませんでした。

「実証」が「教条」を打破したのです。

「やさしい軍医」として、彼の名声が兵士たちの間で高まっていったのも当然です。

 

👉『外科医が歩いてきた道』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】元カノに触った手で触れられるのが嫌で、夫の手を振り払ってしまった。帰宅後、ドアを閉めると同時に激しくキスされ…

【注目記事】彼女から自殺をほのめかすメールが毎日のように届いたが、ただの脅しだと思い無視し続けてしまった。その結果、大学の卒業式当日に…