「人体自然発火現象は昔から世界中で起きており、過去300年の間に200件以上の報告が上がっている。
最も古い報告は1470年、イタリアの騎士ヴォルスティウスが自宅でワインを飲んだ後に口から炎を吐き、全身が炎に包まれ死亡したというものだ。
1725年、パリの宿屋の主人が煙の臭いで目を覚ますと、妻のニコール・ミレーの体が燃えて灰になっていた。残っていたのは頭蓋骨、数個の椎体骨、下腿の骨だけだったが、寝床や周囲の木材は一切燃えていなかった。
2017年にはロンドンの通りで、70歳の男性が突然炎に包まれ焼死したが、消防署の調査では燃焼促進剤は一切見つからなかった。
もちろん中には、自然発火現象を模した偽装殺人も多いが、これらの中には超能力者(サイキック)による発火能力(パイロキネシス)も確実に含まれている」
麻利衣はいつものことながら賽子の奇想天外な話に唖然としていた。
「実に興味深いですね」
鍬下まで賽子に同調したので、麻利衣は裏切られた気分になった。
「もし、そんな能力があるとしたらマイクロ波じゃないかと思うんです。レーザーが最も高出力ではあるが、隔離された対象物を壁を破壊せずに攻撃することはできない。マイクロ波なら知らない間に壁を通過して対象物を加熱することができる。
しかし、マイクロ波は原理上300度までしか人間を加熱することはできず、炭化させることはできない。この矛盾はどう考えますか?」
「それならマイクロ波誘導プラズマだろう」
「プラズマ?」
「マイクロ波エネルギーで人体ガス中の電子を加速し、中性ガス分子に衝突させることで電離させ、プラズマを発生させる。この方法なら5727℃まで加熱することができ、これは太陽の表面温度とほぼ同じ温度だ。人体を炭化させることなどたやすい。
ただし、この能力が使えるのは世界中の超能力者(サイキック)の中でもたった2人しかいない。一人はこの私。そしてもう一人は……西須(さいす)悠雅だ」
「西須悠雅? 何者ですか」
「国際超能力研究所から神撰を出る時まで、ともに能力を競い合ったライバルだ。私を除けば、神撰の中でも最強の超能力者(サイキック)だ。もっとも、ライバルと言ったのはあいつの方で、私は全く相手にしていなかったがな」
「そうですか。それならあの防犯カメラの男がその西須かもしれないですね」
「ちょっと待ってください」
麻利衣が口を挟んだ。
「鍬下さんまでどうしちゃったんですか。まさか本当に超能力による発火殺人だって信じてるわけじゃないですよね。人体発火というのは、人体ロウソク化現象とか何らかの科学的な原因があって生じた可能性があるというのを何かで読んだ気がします。それをいきなり超能力のせいにするなんて全く馬鹿げています」
次回更新は3月13日(金)、21時の予定です。