二〇一九年(令和元年)六月六日に、死因究明等推進基本法が成立した。二〇一二年(平成二十四年)に成立した死因究明2法の内、時限立法であった死因究明等推進法の後継法として提案されながら、会期切れで廃案となったまま今日に至ったのが死因究明等推進基本法である。これにより、医療事故調査制度と合わせて、わが国の死因究明体制の枠組みができあがった。これらの事実の全体像のなかで医師法第21条も考えなければならない。言い方を変えれば、医師法第21条を軽々といじってはならないのである。
本書で、医師法第21条関連の重要事例である東京都立広尾病院事件判決については詳述した。まず最高裁判決から記載し、この最高裁判決の理解のために必須である東京高裁判決を記した。この両判決は、一言一句が重要なため、関係部分は判決全文を記載した。また、東京高裁判決の理解のために、東京地裁判決も、一部修正を加え、主要部分は、その全文を記載している。
本書は、医療を守るために全医療者、関係行政官、法律家に読んでいただきたいと思っている。法律的に稚拙なところはあろう、しかし、そこには医療者としての意思が含まれていると考えていただきたい。ここ数年の議論を経て、私は、医師と法律家とでは、その思考過程が全く異なることを認識した。どちらが正しいということでもない。
ただ、医療者は、「法律的には……」という言葉に引きずられて、生噛りの法律知識をそのまま医療に適用してはならないと思っている。医師法第21条を始めとする幾多の条文は医療現場にとって重要条文である。
条文も国語である以上、法律家の専売特許であっていいはずがない。国語の解釈として何が正しいか、医療現場はどう考えるかを問うてみることとした。医療現場に度々訪れる医師法第21条という暗い影を少しでも取り除くことができれば、本書執筆の意義があったと思っている。