【前回の記事を読む】がんで余命数年と宣告された母。病院代わりに通い始めたのは、ある民家の道場だった。そこで行われていたのは…
サイコ3――奇跡の手
「ああ、ちょっと興味があってね。君のお父さんは那花吉郎博士だよね」
「どうして父の名前を」
「妙に勘繰られても困るから正直に言おう。先日留置場で死亡した羽牟さんが君に会った時、その名前を思い出したんだ。2006年4月19日、君のお父さんは国際超能力研究所所長として奇跡の少女を伴ってTV番組に出演した。珍しい苗字だから羽牟さんはそれをよく覚えていたんだ」
「私は子供だったからよく覚えていません」
麻利衣は急に態度を硬化させた。
「奇跡の少女事件のことは?」
「さあ。何のことでしょう」
「その当時はものすごくセンセーショナルな事件として取り扱われて、今でも人々の記憶の片隅には刻まれているのに、メディアもそれ以降一切取り扱わないし、警察の記録を調べても何も出てこない。
この事件には何か深い謎がある。ひょっとすると羽牟さんは事件について何かの事実を知ったために、命を落としたのかもしれないと考えている」
「えっ、警察の発表では羽牟さんは自殺したって言ってましたけど」
「ここだけの話だが、あれは自殺なんかじゃない。羽牟さんは何者かに殺されたんだと思う」
麻利衣は急に恐ろしくなって立ち上がった。
「私、子供だったからあの頃のことは何も覚えていません。もう事務所に戻ります」
慌ててマンションに戻っていく麻利衣を鍬下は訝しむような眼で見つめていた。